二〇〇二年に刊行された『〈コンパッション〉(共感共苦)は可能か?』(影書房)には、「〈コンパッション〉を育むブックガイド」が収められている。これは、「つくる会」教科書の歴史観・反人権意識に抗するために、議論を通した共同作業のなかから生まれた。この時の問題意識と経験を引き継ぎ、本欄では、『前夜』書評チームが毎回テーマを定め、今読むべき本を、その理由とともに提示していく。書評チームは、二〇代、三〇代のメンバーを中心として構成され、定期的に学習会を持ちながら、共同で選書する作業をおこなっている。候補にあがった本を手分けして複数で読み、その上で討議を通して選書をおこなうという過程自体を重視している。
今号の選書のテーマは、特集と同じ〈文化と抵抗〉とした。〈文化〉を人間の生き方・あり方そのものだと考え、その意味での〈文化〉が〈抵抗〉と分かちがたく結びついていることを、いきいきとした形で描きだしている本を選んだ。自伝的な作品や評伝を中心に、ある個人の姿が明確に浮かび上がってくるということが共通点である。
●長谷川テル作品集 宮本正男 編 亜紀書房(1979)
●パブロ・ネルーダ――マチュ・ピチュの高み 矢内原伊作 訳 竹久夢二 画 みすず書房(1987)
●バルトーク 民謡を「発見」した辺境の作曲家 伊藤信宏 著 中央公論社(1997)
●完訳 マルコムX自伝 上下巻 濱本武雄 訳 中央公論社(2002)
●わが異端の昭和史 上下巻 石堂清倫 著 平凡社(2001)
●反体制の芸術――限界状況と制作のあいだで 坂崎乙郎 中央公論社(1969)
●歴史家たち E・P・トムスン/N・Z・デイヴィス/C・ギンズブルクほか 著 近藤和彦/野村達郎編 訳 名古屋大学出版会(1990)