反戦・反差別・反植民地主義をかかげ、抑圧されているマイノリティとの連帯をめざして旅立つ《前夜》は、この出来事を目前にして沈黙していることはできない。
8月13日の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落「事件」は、沖縄が、日本政府による容認の下、いまもなお米軍による事実上の占領支配下におかれていることをあらためて見せつけた。墜落現場での米軍の無法な振る舞いは、武力を用いた占領者が自ら望むままに権力を振るい住民を「制圧」するという点で、イラクにおける米占領軍の支配と異なるところがない。それはつまり、沖縄を「テロリスト」支持地域として米政府、米軍が認定しさえすれば、空爆によって住民がいくら殺傷されてもかまわぬことを意味する。ブッシュ米政権の「対テロ戦争」論と先制攻撃論によるなら、米軍ヘリ墜落にたいする抗議は「対テロ戦争」への協力義務を拒む敵対行動として制圧の対象となるだろうし、米軍基地移設に抗し辺野古で身を挺して闘う人々が「テロリスト」支持者と認定され文字通りの意味で攻撃されることさえ正当化されるだろう。「イラクの自由作戦」への出撃拠点となっている沖縄米軍基地は、沖縄に生き住む人々の自由と生存を脅かし抵抗を押さえつける暴力のくびきであり、イラク占領支配への加担・協力を日本国民に強いる戦時体制の砦である。米軍によるイラクの軍事支配と民衆抑圧に反対する私たち《前夜》は、米軍が沖縄の基地をイラクにたいする軍事作戦の出撃拠点としていることに抗議するとともに、名護市辺野古沖への基地移設準備をただちに中止するよう米政府に強く要求する。沖縄住民の長期にわたる莫大な犠牲の上に築かれた米軍沖縄基地を撤去させること、さらにはあらゆる地域から軍事基地をなくすことは、私たちが他地域他国を支配する側に立たぬために不可欠の課題である。
自衛隊のイラク派遣を強行し、ブッシュ米政権による戦争と占領支配に深く加担してきた日本政府は、米軍ヘリ墜落に抗議するどころか、その機会をも利用して辺野古への米軍基地移設を強行しようとしている。移設に反対する大多数の住民意思を一切顧慮することなく、沖縄はもちろん日本社会全体をより深く大規模に「対テロ戦争」体制内へ組みこもうとする日本政府の姿勢は、平和の実現にとって新たな脅威を生み出している。「対テロ戦争」体制とは、「戦争」遂行への支持のみならず「自発的」で積極的な協力を私たちに強いる体制にほかならない。愛国心を義務づける教育基本法改定案がよく示しているように、何をどう感じるべきかまでも権力者が指定し規制する「心の動員」は、新たな戦争体制の徹底して非人間的な性格を表すものである。
私たち《前夜》はこの状況を座視することができない。私たちが沈黙し続けることは、権力者が力ずくでつくりだす虚構を「現実」として通用させてしまうことになる。「テロリストへの空爆は行なったが民間人の被害はなかった」などという明白な虚言でさえ淡々と報じられ、そうして許容される事態、「対テロ戦争」遂行に費やされる殺伐たる「努力」よりもはるかに気高く貴重であるはずの平和構築への努力と運動とが無視され非難すら浴びせられる事態−そうした事態を私たちは見過ごすことができない。いまや生活のあらゆる場面で、つまるところ戦争への支持と加担を迫る幾重にも張り巡らされた誘導と強要の体制に、注意深く、しかし明確に声をあげて反対することは、私たちが負うべき歴史的責任であると信じる。